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一歩半目

ブレザーを傘代わりにそういえば午後から雨の予報だったんだっけ、なんて昨日見た天気予報を今更思い出したところで後の祭りもいいところで。昇降口に突っ立ってぼうっと外を見る私の瞳にはしとしと降りの雨が映し出されている。「……はぁ」一つため息を吐き…

向かう日に葵は笑う

「夕飯の準備があるから謙也これやってきてや。ほんで、すき焼きセット当ててや」学校が夏休みに入ったことで殆ど毎日部活に勤しんでいる忍足謙也が、午前中の部活を終え、クーラーの効いた部屋で扇風機を回しながら涼んでいた、そんな時だった。母親から、は…

藤の花、その手を掴む

「侑ちゃん、今日の花火大会行くん?」「言いたない」「なんでやねん」部活から帰ってきて、シャワーと着替え、そして昼食を済ませ、ソファで寛いでいた忍足侑士にとって、突然振られたその話題は、眉間に皺を一本寄せるに十分な内容であった。内容も、言って…

Schneetag, mit Ihnen

今日は急遽部活動が休みになったことと、たまには家でのんびりしようということになり、所謂お家デートをしようということで、静は忍足の迎えを教室で待っていた。手間をかけてしまうから校門で待っていると静が提案したが、ただでさえ短い氷帝の基準服のスカ…

カケラを探して3

*パーカー着用は絶対「侑士先輩! これとかどうでしょうか?」ついてきたのは自分の意志だけれど、だけどやっぱり若干目のやり場に困って下げていた視線を上げて、声の主である静を視界に収める。その手には桜色のワンピースタイプの水着があった。ちょっと…

カケラを探して2

*愛おしさがこみ上げる桜のつぼみがようやく大きくなりだしたころ。氷帝学園中等部の卒業式がある。といっても殆どの生徒がそのまま高等部へと進学するから公立中学校程の寂しさもなければ悲しさもない。言ってしまえば、会おうと思えば会える状況、なのだ。…

カケラを探して

*侑ちゃんなぁ、静ちゃん。電話口の謙也さんはとても愉快そうな声で私にそれを教えてくれる。ああ、きっと電話の向こう側の謙也さんは面白いものが見られそうだ、なんて思っているのかもしれない。……いま目の前に謙也さんがいないから本当のところはどうか…

ああ神様、願わくば、

◇一あんなに多忙な日々を極めた合同学園祭も、振り返ってみればあっという間に終わってしまった。けれどあの二週間は私のこの先の人生の中でも一番充実した二週間だったというのは確実に言えると思う。部活に所属していない私ではなかなか体験することのでき…

次は君から

九月も中頃に入ったというのに太陽はまだまだ夏を終わらせないとばかりに燦々と輝き、カーテンの隙間から差し込む光は明るいを通り越して眩しいとさえ感じる。勉強机に向かい、ふぅ、と一つため息を吐き出した少女――広瀬静はノートの中央にシャープペンシル…

綺麗だなんて、初めて言われた

冬の足音がすぐそばまで聞こえてきそうな朝。まだ吐く息は白くはないが、制服がスカートであるが故にそこから伸びる素足は外気に晒されすっかり冷えてしまっている。そろそろタイツを穿かないと寒いなぁ、なんてことを思いながら現在唯一の女子生徒、天音ひか…