向かう日に葵は笑う
「夕飯の準備があるから謙也これやってきてや。ほんで、すき焼きセット当ててや」学校が夏休みに入ったことで殆ど毎日部活に勤しんでいる忍足謙也が、午前中の部活を終え、クーラーの効いた部屋で扇風機を回しながら涼んでいた、そんな時だった。母親から、は…
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謙虚で静かな恋の話
*忍足謙也にとって、氷帝学園の跡部景吾は従兄弟である忍足侑士から聞いた情報でしか知り得ない人物だった。とてつもない金持ち。俺様。抜群のカリスマ性。誰もが振り向くイケメン。学内、学外問わず話題に事欠かない。侑士のことやから多少話盛っとるんやろ…
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ギブミー
「ん」「え、っと……?」今日は珍しくテニス部の活動がお休みということで一緒に帰ることになった雅治先輩と私はいつもの帰り道を並んで歩いていた。他愛もない話をしながら歩いていると、雅治先輩が急に立ち止まる。どうかしたのかと私も歩みを止めたところ…
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ミッション:ポッシブル
「今日バレンタインデーやな」昼休み。弁当を持ってケンヤの前の席に座り、そういえばという体を装って話題を振る。ここのところずっと気にかけていたようだし、ケンヤのことだからきっと乗ってくるだろうと思っていたのに――、「せやな……」当のケンヤはこ…
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春が待ち遠しくて
到着時間をあらかじめ聞いていたというのに、久しぶりに恋人に会えることが嬉しくて浪速のスピードスターこと忍足謙也はその時間よりも三十分も早く駅に到着していた。嬉しくて、楽しみで、そわそわしている雰囲気が体中から出てしまい、周囲の人間がそれを感…
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「おまん、それは見逃せんぜよ」
それは小さな鳴き声だった。春の温かな風に乗ってやって来た、誰かを、何かを呼ぶようなその声に引かれるように、少女――広瀬静は歩む。側から見れば、ふらふらとしていて一見すれば危うい足取りで進んだ先に見つけたのは、校舎の裏で丸まる小さな白い毛玉。…
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