物置-文章

*モアプリ*

▼侑静

  • 未だ恋を知らぬ

    これは非常にまずい状況なのではないか、と忍足侑士は考える。

  • 本気の可愛い

    「今日も可愛えな、静ちゃん」

  • 桜色リング

    それを見つけたのは本当に偶然だった。

  • 人恋しい

    「え? 今、なんて?」

  • いつもありがとう

    ほんの気まぐれでいつもの帰り道から一本路地に入ってみた。大通りから一本入るだけでこんなにも雰囲気が変わるものなのか、と思いながら歩みを進めていくと、個人がやっているような小さな花屋を見つけた。こんなところに花屋なんて珍しい。この通りはお世辞…

  • 「おやすみ」って こんなに照れるものだった?

    「それでな、岳人がな――」「ふふ、向日先輩らしいですね」いつもの他愛もない会話。雑談と言ってもいいかもしれない。だけどそれがとても楽しくて、心地良くて、幸せで。受話口から聞こえる彼女の優しくて柔らかな声が俺の凝り固まった心をほぐしていくよう…

  • 「お前何しとんねん」

    今日は所謂仕事納めと言われる日であった。と言っても、静の入社した会社は小売業が主な業務内容であるために、年内は三十一日まで、年明けは二日から仕事始めという、年末年始なんてあってないようなスケジュールが組まれている。その代わり、年末は二十九、…

  • 幸せの音

    部屋の大きさからすれば少しばかり大きなテレビから美しいピアノ曲と共に流れるのは今しがた観ていた映画のエンドロール。俳優、スタッフの名前が次々に出てきては消えていく。その演出も、本編の雰囲気や内容に合わせてのものなのかどこかはかなげで、それで…

  • ほっとちょこれーと

    毎年、この日になると氷帝学園の裏門には大きなトラックが何台も停まる。もはや年中行事であるし、一年の頃はそりゃあ驚きもしたが今回で三回目ともなれば、慣れもする。ああ、またかくらいの殆ど感動のない感想を抱きながら下駄箱からローファーを取り出そう…

  • 春、来たる

    *八月ももう下旬に入ったっていうのにうだるような厳しい暑さはまだ続いている。俺、岳人、日吉が合同学園祭でやるたこ焼き屋の屋台は、冷房の効いた本館ではなく屋外の模擬店スペースに配置されたからか、準備中直射日光と熱気がこれでもかと襲い来る。なる…

  • 陰険インテリ眼鏡、友達はミステリー小説

    「静ちゃんにこれあげるわ」そう言われて侑士先輩から手渡されたのは所謂恋愛小説の文庫本。ぱちぱちと二度ほど瞬きしてから表紙と、そして侑士先輩の表情を交互に見る。「ありがとうございます……?」「なんで疑問形なん?」僅かに苦みを混ぜた笑みを作って…

  • Es war schade

    「うぅ……」向日先輩の納豆たこ焼き事件から一時間後。未だに残る口の中のなんとも言えない感じに眉を歪ませて、口元を押さえていると、見かねた様子の声が背中にぶつかる。「広瀬さん、大丈夫か?」ゆっくり後ろへ振り返り、声の主を確認する。が、私の視界…

  • 次は君から

    九月も中頃に入ったというのに太陽はまだまだ夏を終わらせないとばかりに燦々と輝き、カーテンの隙間から差し込む光は明るいを通り越して眩しいとさえ感じる。勉強机に向かい、ふぅ、と一つため息を吐き出した少女――広瀬静はノートの中央にシャープペンシル…

  • ああ神様、願わくば、

    ◇一あんなに多忙な日々を極めた合同学園祭も、振り返ってみればあっという間に終わってしまった。けれどあの二週間は私のこの先の人生の中でも一番充実した二週間だったというのは確実に言えると思う。部活に所属していない私ではなかなか体験することのでき…

  • カケラを探して

    *侑ちゃんなぁ、静ちゃん。電話口の謙也さんはとても愉快そうな声で私にそれを教えてくれる。ああ、きっと電話の向こう側の謙也さんは面白いものが見られそうだ、なんて思っているのかもしれない。……いま目の前に謙也さんがいないから本当のところはどうか…

  • カケラを探して2

    *愛おしさがこみ上げる桜のつぼみがようやく大きくなりだしたころ。氷帝学園中等部の卒業式がある。といっても殆どの生徒がそのまま高等部へと進学するから公立中学校程の寂しさもなければ悲しさもない。言ってしまえば、会おうと思えば会える状況、なのだ。…

  • カケラを探して3

    *パーカー着用は絶対「侑士先輩! これとかどうでしょうか?」ついてきたのは自分の意志だけれど、だけどやっぱり若干目のやり場に困って下げていた視線を上げて、声の主である静を視界に収める。その手には桜色のワンピースタイプの水着があった。ちょっと…

  • Schneetag, mit Ihnen

    今日は急遽部活動が休みになったことと、たまには家でのんびりしようということになり、所謂お家デートをしようということで、静は忍足の迎えを教室で待っていた。手間をかけてしまうから校門で待っていると静が提案したが、ただでさえ短い氷帝の基準服のスカ…

  • 藤の花、その手を掴む

    「侑ちゃん、今日の花火大会行くん?」「言いたない」「なんでやねん」部活から帰ってきて、シャワーと着替え、そして昼食を済ませ、ソファで寛いでいた忍足侑士にとって、突然振られたその話題は、眉間に皺を一本寄せるに十分な内容であった。内容も、言って…

▼その他

  • 「おまん、それは見逃せんぜよ」

    それは小さな鳴き声だった。春の温かな風に乗ってやって来た、誰かを、何かを呼ぶようなその声に引かれるように、少女――広瀬静は歩む。側から見れば、ふらふらとしていて一見すれば危うい足取りで進んだ先に見つけたのは、校舎の裏で丸まる小さな白い毛玉。…

  • 春が待ち遠しくて

    到着時間をあらかじめ聞いていたというのに、久しぶりに恋人に会えることが嬉しくて浪速のスピードスターこと忍足謙也はその時間よりも三十分も早く駅に到着していた。嬉しくて、楽しみで、そわそわしている雰囲気が体中から出てしまい、周囲の人間がそれを感…

  • ミッション:ポッシブル

    「今日バレンタインデーやな」昼休み。弁当を持ってケンヤの前の席に座り、そういえばという体を装って話題を振る。ここのところずっと気にかけていたようだし、ケンヤのことだからきっと乗ってくるだろうと思っていたのに――、「せやな……」当のケンヤはこ…

  • ギブミー

    「ん」「え、っと……?」今日は珍しくテニス部の活動がお休みということで一緒に帰ることになった雅治先輩と私はいつもの帰り道を並んで歩いていた。他愛もない話をしながら歩いていると、雅治先輩が急に立ち止まる。どうかしたのかと私も歩みを止めたところ…

  • 謙虚で静かな恋の話

    *忍足謙也にとって、氷帝学園の跡部景吾は従兄弟である忍足侑士から聞いた情報でしか知り得ない人物だった。とてつもない金持ち。俺様。抜群のカリスマ性。誰もが振り向くイケメン。学内、学外問わず話題に事欠かない。侑士のことやから多少話盛っとるんやろ…

  • 向かう日に葵は笑う

    「夕飯の準備があるから謙也これやってきてや。ほんで、すき焼きセット当ててや」学校が夏休みに入ったことで殆ど毎日部活に勤しんでいる忍足謙也が、午前中の部活を終え、クーラーの効いた部屋で扇風機を回しながら涼んでいた、そんな時だった。母親から、は…


*OA!*

  • 恋愛Lv.1

    *宝石が丘学園を卒業して早三年が過ぎた。なんとか大きな事務所に籍を置かせてもらうことができて今もこうして声の仕事をさせてもらえている。未だに新人の枠を出られないから仕事自体はあまり多くはないけれど、一つ一つ丁寧に取り組んでいるおかげでスタッ…

  • 青色の理由

    ああ、見える。青い光が見える。音響ブースから彼女がペンライトを振っているのが、ちゃんと見える。秒針と同じ速さで光が揺れる。それに合わせ、息を吸って、吐いて。「――――」九人の声が重なり、旋律を作り上げていく。ゆっくり、特待生の指揮に合わせて…

  • What color is the color of the underwear?

    「お! 特待生!」「はい、何でしょう?」本番も間近に迫っていて、皆が慌ただしく、そして世話しなく右往左往している最中、呼び止められる。呼び止められたということは何かしら用件があってのこと。どうかしましたか? と呼び止めた相手――青柳先輩の元…

  • 綺麗だなんて、初めて言われた

    冬の足音がすぐそばまで聞こえてきそうな朝。まだ吐く息は白くはないが、制服がスカートであるが故にそこから伸びる素足は外気に晒されすっかり冷えてしまっている。そろそろタイツを穿かないと寒いなぁ、なんてことを思いながら現在唯一の女子生徒、天音ひか…

  • 一歩半目

    ブレザーを傘代わりにそういえば午後から雨の予報だったんだっけ、なんて昨日見た天気予報を今更思い出したところで後の祭りもいいところで。昇降口に突っ立ってぼうっと外を見る私の瞳にはしとしと降りの雨が映し出されている。「……はぁ」一つため息を吐き…