人恋しい

「え? 今、なんて?」

受話口から聞こえてくる弱々しい返答に頭がうまく処理をしてくれなくて思わず聞き返してしまった。

「……げほっ、あの、私……インフルエンザになってしまいまして……」
「え、インフルエンザ? 大丈夫なん? いや、大丈夫やないよな」

尋ねたはいいが静の返答がくる前に脳内で結論を叩き出して声に出した。
インフルエンザなのだから当然大丈夫なはずがない。むしろ今電話をしているだけでも相当辛いはず。

「はい……なので明日は……」
「ああ、ええ、ええ。絶対安静にしとかなあかんやろ。デートならまた今度な?」
「すみません……ごほっ、ごほっ」
「ええからもう休みや」
「…………はい」

なんだろう、今の間は。もしかしてまだ話したい――とか?
確かに病気の時は人恋しくなるものだけれど、というか明日のデートの予定が水に流れてしまったから俺としてはもっと静の声を聞いていたいところだけれど、それは完全に俺の都合だ。静の体調を考えるならば早々に電話を切って休ませるべきのはず。頭では分かっている。わかっているはずなのに、どうしても「それじゃ」と通話を終えることができない。
もっと静の声を聞いていたい。
だけど早く休ませなくちゃいけない。
云々とひたすら欲望と理性とを戦わせる。
そして――。

「静」
「……はい」
「もう休み。……あと、返事はしなくてもええから、メール送ってもええか?」
「はい、もちろんです」

その最後の一言を聞いて、俺はようやく「それじゃ」と言うことができた。