「今日も可愛えな、静ちゃん」
「ありがとうございます」
愛想笑いにも似た笑みを浮かべて、静の視線はすっと手元のバインダーに落ちる。あまりにも自然な流れに忍足は何も言うことができなかった。
忙しいのはわかる。
やるべき事が多いのもわかる。
けれど今は自分と話しているのだから少し手を止めて、休憩してもいいんじゃないのか……と口にできない思いに蓋をして、忍足はテーブルに肘をついて小さくため息を吐き出す。
「ほんま、動じへんなぁ」
「……? 侑士先輩、どうかしました?」
「いや、独り言や」
「…………」
「…………」
静はやるべきことを。忍足はそんな静をじっと眺めているからか、自然と二人の間には沈黙が居座ることとなる。
「…………」
「…………」
「……あの」
「なんや?」
「それは私のセリフです。さっきからずっと見てますけど何ですか?」
不思議なものを見るような、はたまた訝しむような視線を向けられながら忍足は浅く肩を竦める。
「別に、なーんもあらへんよ」
「何もないなら何で見てたんですか?」
「理由がなきゃ見ちゃだめなん?」
肘をついたまま、薄く、悪戯っ子のような笑みを浮かべて、忍足は先程と同じ事を口にする。彼の中ではかなりの格好をつけて。気合いをいれて。ちゃんと、お世辞でもからかいでもなく、本気の言葉で。
「今日も可愛えな、静ちゃん」
「…………ありがとう、ございます」
今度ばかりは静も耐えきれずに俯くことしかできなかった。